最後のひとつの、
ミント味のチョコレイトを口に含んで、
さようならを言ったら
簡単に飛んでいきそうな気がしたから、噛み砕いて飲み干した。
甘さに咽の奥が何か訴えていたけど、そんなことは知らないふりをした。
チョコレイトはからっぽのはずのわたしのお腹辺りに落っこちていって、ミントの香りで体を冷やす。
それなのに、なんだか不思議な高揚感で胸の奥がどきどきとしていた。
それはわたしのものなのかそれともわたしと重なってる彼のものなのかちっとも分からなかった。
ただひとつ分かってるのは、そのどきどきの原因は目の前の少年だってこと。 「もう行くの」 彼が、名残惜しそうに問うてきて、 「うん」 わたしも名残惜しかったけれど、一言だけ答えた。 今まで願っていても誰にも必要にされなかったわたしと、今まで願わずとも誰からも必要とされてきた彼は対極にあったのだけど、 なぜだか、とても、よく似ていた。 (だから、わたしたちはあの人に影響されているのかしら) わたしたちはおしゃべりが得意な人間ではなかったけれど、はじめて会った時からいろいろなことを語りあった。 過去を引きずるように語り合うことなんて無意味なことは二人とも知っていたから、 例えば、好きな本とか昨日見た夢の話とか、他愛もない、しいていうならくだらないそんな話ばかりをしてた。 (それは、わたしたちにとってきっと初めての経験だ) 「今度はいつ会えるかな」 「きっと、すぐよ」 「そうだね」 「そうよ」 「きっと、すぐだね」 笑って、わたしたちはお別れをする。 (それらはすべて、わたしたちにとって、きっと、初めての経験) どきどきしてる、 でも、これは恋とか愛とかそんなチョコレイトみたいな、とろけるようなものではなくて、 嬉しいの。 だって、わたしたちは、きっと、はじめてのともだちなのだ |