Rare

うんざりとしたのは理不尽で大きすぎる世界に対してではなくて、幼すぎる自分にたいしてだ。
幼ない自分の手にはどれもこれも扱いにくく、世の中の大抵の物は大きすぎて、僕の手には合わない。
ナイフもフォークもあまり得意ではないのだ。
銀色のぎらぎら光るナイフとフォークは、使いにくさを重視したみたいな飾りで、お喋りにがちゃがちゃと耳障りな音を立てるばかりで。いっこうに食事は進まない。 目の前の彼は、自分の手足みたいにナイフもフォークも滑らかな動きで扱っていて、まるで見せ付けるみたいに。(これは考えすぎなのは分かっているけど)
「フゥ太くん。たくさん食べないと大きくなれませんよ」
なんて、言ってくる。
僕はその度に、慌てて、並んだ死んだ生き物の欠片を喉の奥に押し込む。 レアーに焼かれたステーキは死んだ牛の気持ちが滲みだしてくるので、気持ちが悪い。 彼らの気持ちを無視しながら僕は幼さを失っていくんだろうか。 絶望的な真実が、胃の中でいつまでたっても消化されずにぐるぐる回って。 それは死んだ牛の気持ちや摘まれたミントの香りに混ざって僕を内側から支配しようとしている。 大小なんて関係はなく、いつもうんざりするのは、世界の広さのせいでもなく、小さすぎる僕の存在でもなく、あまりに幼すぎる自分に対してだ。
世界ですら人間を持て余すのに。ましてやナイフでさえ持てあましている僕はどうすればいいのか。
無力。今の僕にできるのはただこの時間をやり過ごすことだけだろうか。

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